最低賃金改正でこんな間違いしていませんか?

(中小企業の経営者が必ず押さえておきたい実務ポイント)

毎年10月に最低賃金が改正されるのはご存じの通りですが、実は「正しい計算方法を理解している企業」は想像以上に少ないのが現状です。
栃木県の最低賃金は1,068円と1,000円を超え、企業側の負担も年々大きくなる中、「うちは問題ないはず」と誤解したまま運用してしまうケースが増えています。

この記事では、社労士の視点から、経営者がつまずきやすいポイントをわかりやすく整理します。
あなたの会社にも当てはまる“うっかり違反”がないか、ぜひチェックしてみてください。


■ 間違い①:月給だから最低賃金は関係ないと思っている

多くの経営者が誤解しやすいポイントとして、
「月給者だから時給比較は必要ない」
という考え方があります。

しかし最低賃金法は “時間額” で定められています。
つまり 月給制でも日給制でも、必ず “時給に換算” して比較する必要があります。

▼月給を時給に換算する式

月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 地域の最低賃金額

例:

  • 月給:174,730円
  • 平均所定労働時間:173時間
    174,730÷173=1,010円

栃木県の最低賃金(2025年10月改定)が1,068円なのでアウトです。

そして「月給20万円だから大丈夫」 は絶対に禁物。
固定手当がどれだけあるか、どの手当が対象になるかを区別することが必須です。


■ 間違い②:通勤手当・精皆勤手当・家族手当も含めて計算している

最低賃金に含められるのは、
“毎月固定的に支払われる、労働の対価としての賃金” だけです。

▼最低賃金に「含めていい」主なもの

  • 基本給
  • 職務手当
  • 技能手当
  • 資格手当
  • 役職手当
    → いずれも毎月支払われる固定額の手当

▼反対に「含めてはいけない」もの

  • 時間外手当(残業代)
  • 深夜割増・休日割増
  • 通勤手当
  • 精皆勤手当
  • 家族手当
  • ボーナス
  • 臨時の手当

最低賃金の指摘で一番多いのが、
「通勤手当や精皆勤手当を含めて計算していた」
というケースです。

例えば、

  • 基本給:170,000円
  • 精皆勤手当:10,000円
  • 通勤手当:5,000円

総支給が185,000円だとしても、
「170,000円」だけで計算しなければなりません。

これは非常に多い“うっかり違反”です。


■ 間違い③:契約更新のタイミングで引き上げれば良いと思っている

「うちは1〜12月契約だから、最低賃金が上がっても次の更新時に改定すればいい」

これは明確に誤りです。

最低賃金は 都道府県の告示日に効力が発生 します。
契約期間の途中であっても、最低賃金を下回る賃金で働かせてはいけません。

例:

  • 契約:2025年1月〜12月
  • 時給:1,050円で契約
  • 2025年10月最低賃金が1,068円に上昇

→ 10月以降は必ず1,068円以上支払う必要があります。

最低賃金は“契約”より“法律”が優先されます。


■ 間違い④:労働者が了承しているから問題ないと思っている

「本人が1,000円でいいと言っているので問題ないですよね?」

いいえ、本人同意しても無効です。

最低賃金は“強制法規”で、企業と従業員の合意より優先します。
最低賃金以下で働かせた分は、差額を遡って支払う義務があります。


■ 間違い⑤:派遣労働者は派遣元の最低賃金で計算している

派遣の場合、

派遣先の最低賃金が適用されます。

派遣元の所在地は関係ありません。
東京へ派遣されるなら、東京都の最低賃金で計算する必要があります。


■ 間違い⑥:試用期間中は安くしても良いと思っている

原則として、
試用期間中も最低賃金は適用されます。

「減額特例」はありますが、

  • 大幅に労働能力が低い
  • 職業訓練が主で労働が少ない
  • 軽作業のみ
  • 断続労働で実働が少ない
    など、非常に限定されています。

しかも、
都道府県労働局長の許可が必要
で、企業判断では一切できません。


■ 最低賃金チェックを確実にする3ステップ

ステップ1:対象賃金だけ抽出する

・基本給+固定手当のみ
(通勤手当・残業代・家族手当などは除外)

ステップ2:時給に換算する

月給 ÷ 月平均所定労働時間 = 時給

ステップ3:地域ごとの最低賃金と比較する

不足がある場合 → 基本給や手当の見直しが必要


■ まとめ:最低賃金チェックは「10月の経営ルーティン」に

最低賃金法違反とならないためにするべきことはシンプルです。

✔ 毎年10月は“最低賃金チェック月間”とする

✔ 対象賃金を見誤らない

✔ 月給制こそ要注意

✔ 最低賃金割れが起きていないか必ず確認する

労基署の指摘や遡り支払いを防ぐためにも、
小さな見落としを確実に潰していくことが重要です。


■ 社労士からのひとこと

最低賃金は毎年見直され、今後も上昇が続くと言われています。
「うちは大丈夫」と思い込むのではなく、
自社の制度・給与体系を毎年点検する習慣づけが最も効果的です。

この記事が、あなたの会社が法令対応を確実にし、
従業員にも安心して働ける環境づくりの一助となれば幸いです。

「うちの会社も確認してほしい」
「賃金体系を見直したい」

という場合は、お気軽にご相談ください。

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