それって違反かも!経営者が見落としがちな労働基準法3選


1. はじめに:知らずに違反しているかもしれない労務リスク

「うちは小規模だから大丈夫」「社員と信頼関係があるから問題ない」
——そう考えていませんか?

実は、労働基準法違反の多くは**「知らなかった」「つい後回しにした」**というケースから発生しています。
厚生労働省の「労働基準監督署の監督指導結果」によると、毎年約7割以上の事業場で何らかの違反が見つかっています。中でも中小企業が多くを占めており、経営者の“認識のズレ”が原因であることが少なくありません。

違反が発覚すると、是正勧告書の提出や遡及支払い、悪質な場合は罰則の対象となることも。
今回は、**経営者が特に見落としやすい「労働基準法違反の3大ポイント」**を、社労士の立場からわかりやすく解説します。


2. 第1の見落とし:固定残業代の運用ミス

●「みなし残業込み給与」は要注意

求人票や雇用契約書に「月給30万円(みなし残業40時間込み)」と書かれていませんか?
一見わかりやすく見えますが、固定残業代制度には厳格な条件があります。
厚生労働省によると、以下3点を明示しなければなりません。

  1. 固定残業代を除いた基本給の額
  2. 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  3. 固定残業時間を超える時間外労働等に対し、割増賃金を追加で支払う旨

これらが曖昧だと、固定残業代部分が無効と判断されるリスクがあります。
その場合、支払った給与のうち「固定残業代部分」が通常賃金とみなされ、未払い残業代が発生することに。

●正しい設定と運用のポイント

  • 就業規則や労働条件通知書に明確に記載する
  • 実際の残業時間が固定分を超えた場合は、超過分を別途支払う
  • 固定残業代に見合う実労働時間を定期的に確認する

●判例に見るトラブル事例

例えば、東京地裁令和4年判決では、約130時間分の固定残業代が無効とされました。
無効とされれば過去分の未払い残業代+遅延損害金を支払うことになることにも。

ポイント:固定残業代は「制度」ではなく「ルール化された支払い方法」。
曖昧な運用はトラブルのもとになります。


3. 第2の見落とし:年次有給休暇の5日取得義務

●義務化の背景と対象

2019年4月の法改正で、**全ての企業に対して「年5日の有給取得義務」**が課されました。
対象は、**年10日以上の年休が付与される全労働者(正社員・パート含む)**です。
これは「本人が希望するかどうか」に関わらず、企業が取得させる責任があります。

●「本人が申請しないから放置」は違法

多くの経営者が誤解しているのがこの点です。
労働者が自発的に申請しなくても、会社側には計画的に年休を消化させる義務があります。
厚労省のガイドラインでも、「労働者が取得しない場合は、会社が時季指定して与えること」と明記されています。

●管理簿の作成義務

さらに、「年次有給休暇管理簿」の作成と3年間の保存義務もあります。
管理簿がないと、取得義務を果たした証明ができません。
これは、労働基準監督署の調査でも必ず確認される書類のひとつです。

ポイント:有給休暇は“権利”であると同時に、“企業の管理義務”でもある。
取得促進の仕組みづくりが、職場定着や生産性向上にもつながります。


4. 第3の見落とし:労働条件通知書の未交付・不備

●「口頭で説明したから大丈夫」は通用しない

新規採用時に「給与や勤務時間は口頭で伝えた」という対応をしていませんか?
労働基準法第15条では、**「労働条件は書面で明示すること」**が義務付けられています。
これは、本人が希望すればメールや電子交付でも構いませんが、必ず文書化する必要があります。

●交付が必要なタイミング

  • 新規採用時
  • 契約更新時(契約社員・パートなど)

●労基署調査で多い指摘

  • 契約期間の明示漏れ
  • 賃金の締日・支払日・支払方法の未記載

こうした不備は、形式的な違反と軽視されがちですが、是正勧告の対象になります。
また、助成金申請の際にも「労働条件通知書の控え」が必須な場合があるため、整備していないと申請できないケースも。

ポイント:労働条件通知書は“雇用契約の証拠”。
トラブルを防ぐ最初の防波堤です。


5. まとめ:日常業務の中で法令遵守を仕組み化する

労務トラブルは、「うちは小さい会社だから」「昔からこのやり方だから」と油断したときに起こります。
しかし、一度問題が起これば信頼の失墜・人材流出・金銭的損失につながります。

中小企業では、担当者不在で法改正対応が遅れがちですが、
「毎年の法改正チェック」や「社内ルールの定期見直し」を仕組み化することで、大きなリスクを未然に防ぐことができます。

社会保険労務士は、法令順守だけでなく「企業を守るための現実的なアドバイス」を行う専門家です。
ぜひ一度、自社の現状を棚卸しして、安心して経営に集中できる環境を整えましょう。


💬 まとめの一言

知らずに違反していた、では済まされない時代。
今こそ「労務リスクの見える化」で、強い企業づくりを。

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